ゲノム基本法成立におけるコメント

 今般、「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律 」が成立しました。

 ゲノムとは個人が生まれながらに持つ遺伝子情報のすべてをまとめた概念です。ヒトゲノムは生物としての人の設計図であり、細胞内のDNAというひも状の分子に約30億文字からなる情報として書かれています。
 このゲノム情報を読み尽くす技術がここ10年ほどで実用化しました。ゲノム情報の個人差は、生まれながらにして一人ひとりが異なることの要因でもあり、さらに個人の病気へのかかりやすさ(かかりにくさ)に関係する情報でもあります。またがんが発症する場合には、体の一部の細胞のゲノム情報が変化することも明らかとなりました。
 そこでゲノム情報を診断や治療法の選択に用いるという概念が生まれ、ゲノム医療と称されています。ゲノム医療の考え方に従い、難病やがんの新たな治療法が見出されたことは人類に恩恵をもたらしており、今後も医療現場におけるゲノム医療の活用やその基礎となる研究の推進が望まれます。一方で 生まれながらにして個人が有するゲノム情報は、本人およびその血のつながりのある方 、さらには子孫についても将来の健康状態や障がいを予測し得るといった特性があります。ゲノム医療の推進にあたっては、不当な差別の防止など生命倫理の立場から適切な配慮が必要です。

 今般、新しい法律が成立したことから、ゲノム医療が加速すると期待されます。超党派の国会議員により提出された本法案の早期成立に当たっては、ゲノム医療の推進の必要性とゲノム情報の保護の重要性について、58の学術・医療関連団体、184の患者・障がい児者・家族関連団体、その他の市民・消費者・福祉関連団体、産業関連団体を含む250を超える団体 からの賛同が集まり、その声を国会に届けてきました。

 ゲノム情報の分析と医学的な解釈を行い、得られた結果を適切に患者さんたちに伝えて最良の医療につなげることを専門分野とするわれわれは、ゲノム情報の活用と保護は車の両輪であることを再認識し、今後も関連する学術団体・患者団体を含めて幅広く連携して、より良い医療の提供と普及という共通の目標に向かって努力を重ねる所存です。

 

令和5年6月9日 
日本人類遺伝学会理事長 小崎 健次郎
日本遺伝カウンセリング学会理事長 櫻井 晃洋
日本遺伝子診療学会理事長 中山 智祥
東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 武藤 香織


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